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原作者の著作権表示:copyright 2008 eed3si9n CC BY-SA 1.0.

この文書はCreative Commons Licenseのもとに公開されていたものを、編者がInternet Archivesからサルベージし、再マークアップ・誤字の訂正・リンクの修正をしたものです。この文章の「僕」という一人称は原作者の一人称であり、編者の一人称ではないことに留意してください。なお、原作者のeed3si9n氏はDoubleTypeの開発者で、現在はeed3si9n | only the code never lies.で活動されています。


About em

出典: DoubleType

em について

この文書は Creative Commons License のもとに公開されています。

導入

em―これほど混乱を招きやすいタイポグラフィーの概念が他にあるだろうか。 まず名前からして混乱を招きやすい。書体を作る側も、使う側もハッキリ分からない。 活版職人の方にとってはこれほど具体的で、物理的なものはないだろうが、デジタルなフォントを作る立場に立つと(しかもまだ存在しない書体のエムとなると)雲をつかむようなものである。相対的なものの長さを測ろうとしてるのだから仕方がないことだが。

やっぱり、名前がいけない。誰がどう見ても、em は M だと思ってしまう。しかもそれが完全には間違っていないからたちが悪い。

この文書では書体のデザインの要の単位でありながら、人々を混乱させ続けている em の定義の揺れについて考えてみたいと思う。

間違いパターン

間違いパターンその一

字体 M を囲む長方形。em-square に全ての字体が収まるはずなのに、これでいいのか?ってことでこれは気づくと思う。p はどうするの?って。

間違いパターンその二

字体 M のセット幅(横幅)。これが一番多い間違い、だけど間違いは間違い。

monospace な typeface (例えば、doubletype のロゴに使われてる書体とか)だと、もうこれは間違いと言うしかない。横幅で測り始めた時点で間違いだろう。ただ、これが名前の由来になっているのが困る所。古き良きローマ帝国の時代には M のセット幅は em に近く、そこから名前が来てるわけだ。さらに悪いことに、1/2 em が en であるので、何かの横幅だと思ってしまう。

ただ、小文字が発明された後は、古典的な書体でも em が M のセット幅であることは稀で、普通は M の幅は em より狭い。

間違いパターンその三

全角文字のセット幅(横幅)。QuarkXpress では em を 0 二つ分と定義するという記述を最近見かけたが、これも間違い。横組みの組版ではセット幅は可変であり、横幅は頼りにならない。

間違いパターンその四

h のアセンダーの最も高い点から、q のディセンダーの最も低い点までの距離。これは、僕がやらかした間違い。近いけど、間違い。これを em とすると、leading なしで組むと文字がくっついてしまう。

em の定義

じゃあ、em ってなんなんだろう。正解は type (活字)のサイズを一辺とする正方形の詰め物、em quad(エムクワタ)のこと。長さの単位として使う場合は、em space と使い分けることもあるけど、普通 1/2 em などと表記する。

書体で不変であるフェイスの高さを body size といい、それを 1 em としたわけ。つまり、12pt のフォントの 1 em は 12pt。活字で組んだときのタイプフェイスの高さをもとに、全ての TrueType font が定義されてるわけだ。

手書きの h とか q からどうやって割り出すかとなると、難しくなってくる。

よく考えてみると、文字を先に考えるからいけない。活字の彫師の立場で考えると、すんなり解決する気がする。まず em ありき。12 ポイントのフォントを考える。1 em は 12pt。つまり、12pt 四方の木を用意し、その木に h を彫る。それが 12 ポイントの h。

検証

さて、参考資料集め。これが少し面倒なことになっています。日本語の web 上だと、僕が間違いだとする定義を使っている人が多い。タイポグラフィーの参考書として持ってる本が英語ばかりなのであしからず。参考までに拙訳を付記したものもあるが、資料的価値があるのは原文の方なので、原文を読んでみて欲しい。

参考書

The Elements of Typographic Style

まずは僕の第一の参考書である Bringhurst の The Elements of Typographic Style, 2.5 ed. p.291:

Em Em In linear measure, a distance equal to the type size, and in square measure, the square of the type size. Thus an em is 12 pt (or a 12 pt square) in 12 pt tpe, and 11 pt (or an 11 pt square) in 11 pt type. Also called mutton.

Em 長さを測るときには、em はタイプサイズに等しい距離のことで、広さを測るときはタイプサイズを一辺とする正方形のこと。よって、12 pt の活字における em は 12 pt (もしくは、12 pt の正方形)であり、11 pt の活字では 11 pt(もしくは、11 pt の正方形)である。マトンとも呼ばれる。

The Elements of Typographic Style は他の本や、他の本に対する批評文でも参考書として薦められるタイポグラフィーの定番の本で信用できる一冊。

タイプサイズをもとにした em の定義であり、正当なもの。幅という概念が一切出てこないことに注意して欲しい。

タイプサイズはどう定義されるのだろうか。

p. 298:

Type Size See body size.

タイプサイズ ボディーサイズを参照せよ。

Body Size In graphic terms, the height of the face of the type, which in letterpress terms is the depth of the body of the block on which each individual letter was cast. In digital type, it is the height of its imaginary equivalent, the rectangle defining the space owned by a given letter, and not the demension of the letter itself. Body sizes are usually given in points - but European type sizes are often given in Didot points, which are 7% larger than the points used in Britain and North America.

ボディーサイズ 図画的には、活字のフェイス高さであり、活版印刷の点から見ると、各々の文字が鋳造されたブロックのボディー深さのこと。

デジタルタイプにおいては、仮想的なそれ[活字が持つ長方形]と同等のものの高さであり、文字そのものの寸法ではない。ボディーサイズは通常ポイントによって与えられる。ただし、欧州ではしばしば英国や北米のポイントよりも 7% 大きいディドットポイントによって与えられる。

活字のフェイスの高さを基準にして、ボディーサイズを定義し、それが em であるというわけ。繰り返えすが、ここまでで、セット幅には一切言及されていない。それが何故かは、西欧の組版の仕組みを考えてみれば分かる。各々の活字によってセット幅が変わるが、活字のフェイスの高さを一定にすることで一行ずつ横に並べて組めるようになっているわけだ。

間違いパターンの全てを否定していることにも注意して欲しい。

Designing with type: A Basic Cource in Typography

James Craig の Designing with type: A Basic Cource in Typography, 4th ed. 本文だと p. 22 あたりだけど、索引がまとまってるので引用する。p. 166:

Em. Commonly used shortened term for em-quad. See also Em-quad.

Em。エムクワタの略称として一般的に使われる用語。エムクワタを参照せよ。

Em-quad. In handset type, a metal space that is the square of the type body size; that is, a 10-point em-quad is 10 points wide. The em gets its name from the fact that in early fonts the M was usually cast on a square body.

エムクワタ。手組みの組版における活字のボディーサイズを一辺とする正方形の金属の区切り文字。つまり、10 ポイントのエムクワタの幅は 10 ポイントである。em の名前は、初期のフォントでは通常 M が正方形のボディーに鋳造されたことに由来する。

本文には、エムクワタが段落の一字下げに使われると書かれている。

この本は Elements本のように有名なわけではないが、本屋で手にとってみて 分かりやすそうな教科書だったので買ったもの。9 x 12" と大きく、図も多くて使いやすい。

w3c: Cascading Style Sheets

次は web だけど、まずは信用できそうな筋ということで、w3c なんかどうだろうか。 World Wide Web Consortium というのは web の規格を策定している団体である。

Cascading Style Sheets, level 2 4.3.2 Lengths:

em: the 'font-size' of the relevant font

em: フォントの 'font-size'。

Cascading Style Sheets, level 2 15.2.1 Font specification properties

Font size
The font size refers to the size of the font from baseline to baseline, when set solid (in CSS terms, this is when the 'font-size' and 'line-height' properties have the same value).

フォントサイズ
フォントサイズはベタで組んだときのフォントのベースライン間のサイズを指す。(CSS においてベタ組みとは 'font-size' と 'line-height' が同値であること)

Web ページでの文字やレイアウトを指定する規格に CSS というものがあるが、その CSS で使われる長さの単位の一つに em がある。例えば、段落の始めを 1 em 下げたりという指定ができる。

結果から言うと、この定義は正しいものです。仮想の活字という概念を引っ張りださないために、ベタという概念を使っている。要は、行間アキ無しで組めば、ベースライン間の距離がタイプフェイスの高さになりますよ、という話だ。

em そのものは縦でも横でも測ることができるが、em の定義にはセット幅や、大文字の M に関する記述はでてこないのに注意して欲しい。

TrueType Reference Manual

それでは TrueType の開発者である Apple Computer の TrueType Reference Manual による em の扱いを見てみよう。 TrueType Reference Manual ch 2 The Font Engine:

The scaler converts values in the master coordinate system to values in the pixel coordinate system by multiplying them by a scale. This scale is:
pointSize * resolution / (72 points per inch * units_per_em).

マスター座標系の値からピクセル座標系へ比例で変換することができる。その比は:
ポイント数 * 解像度 / (72 ポイント毎インチ * ユニット毎em)

これは少し分かりづらいかもしれない。TrueType のグリフは em を分割したエフ単位と呼ばれる座標系を使って指定されるが、そこから物理的な座標系を飛ばして、ピクセルの単位系での値を求めている。物理的な系からピクセルの座標系へは解像度を使って変換する。

具体的な数値を入れて確かめてみよう。解像度を 96 dpi(ドット毎インチ)とし、エフ単位を 1024 ユニット毎em と定める。式に代入すると:

y [px] := x [FUnit] * ポイント数 * 96 [px/inch] / (72 [pt/inch] * 1024 [FUnit/em])

となる。ピクセルを px、ポイントを pt で示した。 ここで、12 pt の 1 em が何ピクセルか求めてみよう。

y [px] = 1024 * 12 * 96 / (72 * 1024)
       = 16 [px]

16 px は 96 dpi の解像度では、0.1666 inch であり、12 pt であるから、12 ポイントのフォントにおいて、1 em が 12 pt であることが確認できた。これを参考に x と y の単位系を変更していってみよう。

y [px] := x [em] * ポイント数 * 96 [px/inch] / (72 [pt/inch]) x を em で与える。

y [inch] := x [em] * ポイント数 / (72 [pt/inch]) y を inch に変換。

y [pt] := x [em] * ポイント数 y を pt に変換する。

1 em は常にポイント数で与えられる長さに一致することになる。ポイント数の単位系は実は [pt / em] ポイント毎em だったというわけ。

Adobe A glossary of typographic terms

折衷案で興味深いのが Adobe A glossary of typographic terms:

em, em space, em quad

A common unit of measurement in typography. Em is traditionally defined as the width of the uppercase M in the current face and point size. It is more properly defined as simply the current point size. For example, in 12-point type, em is a distance of 12 points.

em, em スペース, エムクワタ

タイポグラフィーにおける共通の測定単位。 伝統的に em はその時使われている書体とポイント数の大文字の M の幅と定義される。 正確には、その時使われているポイント数と定義される。例えば、12 ポイントの活字では em は 12 ポイントの距離である。

後半はもちろん正しいのだけど、前半の「伝統的には」の部分は間違い。後述の The Complete Manual of Typography にあるように、多くの書体の M の幅は em 以下だから。 ローマ帝国の Capitalis Quadrata など、大文字のみの書体において M の幅を em をもとに作った背景があるけど、小文字が発明された時点で M の幅は em 以下になった。

「オレは伝統派だぜ」と言って、em を M のセット幅とすることは、活版印刷の伝統に照らして間違いなわけだから、「伝統的には」という表現は誤解を招く。Capitalis Quadrata にしても、まず正方形の em を定義して、そこに M を描いたわけだし。

The Complete Manual of Typography

確認のために、タイポグラフィー関係で信用できそうな本を入手することにした。そこで選んだのが James Felici 著の The Complete Manual of Typography。Units of Typographic Measurement (タイポグラフィーの測定単位)という章がもうけられ、em についても説明されている。p. 24:

The Em
The fundamental relative unit in typography is the em. An em is the same size as the type currently being set, so if you're setting 11-point type, an em equals 11 points. Despite the sound of its name, an em is not the width of an M; in fact, an M is rarely a full em wide (see Figure 2.4).

The Ms in the bottom row (each shown within an em square corresponding to its typeface and point size) illustrate that the width of an em has nothing to do with the width of an M.

The Em
タイポグラフィーにおいて、基礎となる相対単位は em である。 em は現在組んでいる活字のサイズと同じで、11 ポイントの活字を組んでいるなら em は11 ポイントに等しい。その名前からくる印象に反して、em は M の幅ではない。実際には、M が em 幅いっぱいであることは稀である(図 2.4 参照)。

対応する書体とポイント数のエム正方形に描かれた M を並べた。これは em の幅と M の幅が関係のないものであることを例証する。

em はタイプサイズであることを定義するだけではなく、M のセット幅であることを完全に否定している。図に em square と共に三つの書体での M が示されていて、em と M は全く関係のないものであると説明が書かれている。

Basic "old timers" typesetting practices

Jan Roland Eriksson氏の Basic "old timers" typesetting practices を

Luc Devroye氏の Font Measurements から見つけた。 Font height と em-quad に関しての説明が大変参考になった。長めの分なので一部だけ引用する。 "The height of a font":

The required height of a lead block, that is cast to make room for all possible characters in a font, is traditionally called font height. Normally the height of the block is little bit larger than the characters printing face since the character, cast on top of the block, is slightly tapered to make it easier to get it out of its mould during the casting process.

"The em-quad (square)"

The font height is in it self such a significant unit of length for a typesetter, that it has been used to define a universal unit of relative length by the name of one em, where the name may stem from the fact that the letter M in the Roman alphabet did in fact have a width that filled the full width of the square based on the height of the type in use.

この本稿の目的として、em の定義に関わる部分だけ引用したが、Eriksson は他にはない em への手がかりが書かれている。まず、一つは 200 BC あたりに完成されたローマ帝国の Capitalis Quadrata。大文字だけで構成されるこの書体はタイプサイズを幅とする正方形をもとにデザインされ、"C, G, M, O and Q" の文字はタイプサイズをセット幅としたらしい(つまり、間違いパターンその一、その二)。しかし、小文字の発明と発音記号のために em は上下に伸びたが、M はそのままの大きさで残った(間違いパターンその四)。次に、活字が発明され、タイプを鋳型から取り出せるようにさらに上下に em が伸びた(正しい定義)。印刷された字がインクが紙に滲んで少し大きくなることも書かれている。

日本語の webサイト

日本語の webサイトでの em の説明はタイポグラフィーの参考書が少ないのか、M の字幅にこだわっている所が多いようだ。特に日本語のタイポグラフィーでは全角というものがあるので混乱しやすい。

Google を用いて、「印刷用語 エム」、「用語 em dtp」などのキーワードを用いて検索した。

ひだりうちわ

印刷総合サイト ひだりうちわより:

エム(em)
欧文文字におけるサイズを表し、和文文字の全角に相当する意味のこと。アルファベット文字は、和文文字と異なり、ボディの幅(セット)がいろいろあるため、全角(正方形)に近い幅を想定してこれを「エム」と呼んでいる。「M」の字が全角に近いことからこの呼び名があるといわれている。

全角
活字(印刷用文字)のサイズを表すもので、ボディの天地と左右の寸法が同じもの(正方形)を「全角」という。

全角の定義がエムクワタなので、これは間違っていないと思う。

国進印刷 印刷用語辞典

次は国進印刷が公開している用語辞典からです。 印刷用語辞典:

■エム【em】
欧文の標準書体のMの文字サイズを基準にした使用書体の全角サイズ。DTPでは文字の送り量を表す単位として使用されることが多い。

M の文字サイズというのはセット幅のことか、それともタイプサイズのことだろうか。使用書体の全角サイズという定義は間違ってないけど、欧文の標準書体の M 云々という記述は間違いだろう。

編注:現行の印刷用語辞典では、emとは、タイポグラフィに於いて活字の大きさのこと。たとえば、12ptの活字ではEMのサイズは12ptである。DTPでは文字の送り量を表す単位として使用されることが多い。となっており、おそらく正しい記述になっていると思われる。

TR X 0003:2000 フォント情報処理用語

日本語で信用できそうな筋の web サイトがやっと見つかった。財団法人日本規格協会情報技術標準化センター(INSTAC) の電子出版技術調査委員会により書かれた TR X 0003:2000 フォント情報処理用語:

エム 欧文における文字サイズを示す正方形の幅。

対応する英語や、漢字のエレメントなどが列挙されてて参考になる。個人的には英語からの和訳ができることが助かる。

和文フォント大図鑑 フォント用語事典

ohka氏の和文フォント大図鑑のフォント用語事典には em に関して二つのエントリーがある。ohka氏には DoubleType を紹介してもらっていて感謝しています。

フォント用語事典:

em [エム]
 ミリやインチのような測定単位のひとつで、欧文組版で使う。使っているフォントの、Mの字幅を一辺とする正方形のこと。和文の全角に相当する。Mの活字が正方形に近いことが由来。ただしQuarkXPressのデフォルトでは、使用しているフォントの0(ゼロ)の2倍分を1emと定義している。

エム [em]
 ミリやインチのような、欧文組版で使う測定単位のひとつ。使っているフォントの、Mの字幅を一辺とする正方形のこと。和文の全角に相当する。名称の由来は、Mの活字が正方形に近いことから。イーエム。

使っているフォントの M の字幅を一辺とするというのは間違い。あと、もし本当に QuarkXpress がこれをデフォルトとしてるとこれも大きな間違い。

図解DTP用語辞典

驚くことに、和文フォント大図鑑と全く同じ記述が別の web サイトでも見つかった。 株式会社イーストウェストコーポレーションの図解DTP用語辞典。 どちらがオリジナルを書いたのかはいいとして、間違ってる内容がコピーされてしまってるのは困り者だ。

図解DTP用語辞典:

【エム】em
ミリやインチのような測定単位のひとつで、欧文組版で使う。使っているフォントの、Mの字幅を一辺とする正方形のこと。和文の全角に相当する。Mの活字が正方形に近いことが由来。
ただしQuarkXPressのデフォルトでは、使用しているフォントの0(ゼロ)の2倍分を1emと定義している。

図解DTP用語辞典の参考文献というリンクには日本語の参考書が列挙されてるけど、こういう em の定義がされているのだろうか。

TeX 関係

この文書はタイポグラフィーの理解を深めるために書いているものであり,特に TeX にたいして悪意があるわけではないので,あんまり気にしないで欲しい。と,前置きがいるのは TeX も TeX 関連の書籍なども間違った em の定義を使っているからだ。

大別して二つの問題がある。第一に,古い実装の TeX もしくは TeXbook は em を M のセット幅だと定義していたらしく,それにより多くの人が未だに em を誤解している。第二に,TeX もしくは TeXbook は em の定義を変更したのだが,新定義もまたタイポグラフィー的には間違った定義であることだ。

TeX用語ガイド・用語集

ニフティの FTEX の TeX用語ガイド・用語集です。

TeX用語ガイド・用語集 編注:フォーラム@niftyはサービスを終了している。また、waybackでログの取得不可能であった。:

用語: em, ex (えむ, えっくす)
説明: TeX で用いられる長さの単位。 em がその時選択されているフォントの "M"の横幅,ex が "x" の高さである。 \nomalsize の \rm で 1em = 10.00pt,1ex = 4.31pt。 ex には canonex と言う意味もある。

「その時選択されているフォントの "M"の横幅」というのは明らかに間違い。

A Gentle Introduction to TeX: A manual for Self-study

TeX に関するリファレンスはどこを使ったらいいのか分からなかったので、入門書で定番らしい Michael Doob著 A Gentle Introduction to TeX: A manual for Self-study p. 19:

The ex is about the height of a small "x" and the em is a little smaller than the width of a capital "M". TeX book 60

QuarkXpress の 0 二つ分のセット幅というのも困るが、TeX まで M のセット幅というのはがっかり。

Kent vs Hudson

これに関して既に議論がないか探した所、w3c の CSS3 に関するメーリングリストで、TeX との互換性を保つために em の定義を変更せよと意見を出した方がいた。それが Karlsson Kent氏 の What's an emです。 CSS は em をタイプサイズとする正しい定義を使っているが、それを変更してくれというわけ。

タイポグラファーらしき John Hudson氏から em の定義について反論が出された。 Re: What's an em:

...I would like to point out that the term 'em' has been used in English language typography for 250+ years to refer to a horizontal unit of measure equal to the body height of type at a given point size. Hence, 16pt type has an em width of 16 points.
...
Although the term em derives from the pronunciation of the letter M, it was never traditionally used to refer to the width of that letter, which would vary considerably, of course, from typeface to typeface and from font to font.
...
I leave it to you to figure out how this relates to CSS, but if TEX and any other system is using the term em to refer to the width of the letter M, this is due to a misunderstanding.

em は二百五十年以上英語のタイポグラフィーの中でボディー高と等しい長さの単位として使われ、名前の由来が M という字の音ではあるが、M の字幅を指すことはなかったと指摘している。

The TeXbook

ここまで書いて、The TeXbook も読まずに TeX を語るとは何事かという批判を頂いた。 「本を読まないプログラマが一番悪い」と自分で書いたばかりだったので、反省している。早速 Donald E. Knuth氏の The TeXbook を入手した。

ところで、The TeXbook がなかなか見つからず、代わりに LaTeX: A Document Preparation System System を立ち読みしたところ、em を現在使われいるフォントの M の幅に近い値と定義していた。また、Helmut Kopka氏の Guide to LaTeX も同様に定義していた。これは、FTEX の用語集、Doob氏の Gentle Introduction とマッチする。 

ようやく The TeXbook を見つけたが,どうやら新版と旧版で em の定義が変更されたらしい。

The TeXbook p. 60:

em is the width of a "quad" in the current font; ex is the "x-height" of the current font.

Each font defines its own em and ex values. In olden days, an "em" was the width of an 'M', but this is no longer true; ems are simply arbitrary units that come with a font, and so are exes.

em は現在使っているフォントの「クワタ」の幅である。 ex は現在使っているフォントのエックス高である。

各々のフォントは独自に em と ex の値を定義する。昔は em は大文字の M の幅であったが、現在それは正しくない。em や ex は単にフォントについてくる任意の値なのだ。

em は M のセット幅ではないと Knuth教授もこれは否定している。しかし、ここでびっくりするのが、em とはフォントについてくる任意の値であるとしてしまっていることだ。 定義を見ると、em はクワタ幅、つまり全角の幅としている。エムクワタと言うと、普通タイプサイズを一辺とする正方形と定義されますが、TeX のフォント内に quad width なるパラメータがあり、任意に指定することができる。

The TeXbook p. 433 によると、cmr10 というフォントでは 10.00 pt ですが、cmbx10 では 11.50 pt と指定されている。

Knuth氏の言うように em は例えば段落の送りなど紙面の横幅の指定に使われることがある。しかしこの em を書体ごとに変わる任意の値として、使っている書体によって em の指定が変わるというのはいかがなものだろうか。クワタを正方形ではなくした時点で Knuth氏の em の定義は間違いだろう。

LaTeX

Lamport氏に em の定義が間違っていると指摘したところ、em を M のセット幅とする定義は TeX から来ており、TeX78 の定義ではそうなっていたのではないかという回答だった。定義が後に変わったことに気付かなかったとのこと。

QuarkXpress 関係

Quark Knowledge Base #4081

Quark社の web サイトにて em で検索したところ、Support Database から em の定義に関するアイテムが見つかった。

Definition of Em space, En space, and Flex space:

The Standard Em Space is based on a typographer's em space (point size = em space value). QuarkXPress uses the width of two zeros in a particular font to define the width of an em space.
The default for the Standard Em Space check box in the Typographic Preferences dialog is unchecked. When you select the check box, em spaces will be equivalent to the point size for your text. For instance, 24-point text will have a 24-point Em space.

em を 0 二つ分の幅とする定義は完全に間違っているが,「標準 em スペース」は「タイポグラファーの em」(point size = em space value) とされると潔く過ちを認め,ユーザに常識的な定義を知らせ,また「標準 em スペース」を使うオプションを与えているのは好感が持てる。デフォルトでこれはオフになっているみたいだが、既存のデータとの後方互換性を考えると仕方がないだろう。


"http://web.archive.org/web/20090426080528/http://doubletype.org/wiki/index.php/About_em/ja" より複製。

原文の最終更新 2008年7月30日 (水) 23:25。